PR-002 円買い介入の資金制約 — 検証計画の事前登録
為替介入研究所 | 登録: 2026-08-09 | 対象研究: WP-002(計画中) | 状態: PREREGISTERED(凍結)
本登録は、E6介入額の確定公表(2026-08-28)および外貨準備8月末分の公表(9月上旬)に先立って、検証対象仮説・指標定義・判定手続きを固定するものである。判定前の変更は行わない(会則第19条)。変更が必要な場合は新版として理由とともに公開する(第32条)。正本ハッシュは研究台帳に掲載し、外部タイムスタンプ(OTS)はGitHub初回コミット時に刻印する。
一 主命題(検証対象仮説)
外貨準備の総額は、円買い介入の短期的な実行可能額を直接表さない。 介入能力の評価には、資産の流動性、実際に観測された資金調達経路、および資産処分に伴うコストを区別する必要がある。本命題は結論ではなく、以下の下位仮説群を通じて検証される。
二 下位仮説と反証条件
H1(流動性制約) 円買い介入の短期的な制約は、外貨準備総額ではなく即時利用可能なドル流動性である。 反証条件: 即時流動性(§四のILC分子)を大きく超える規模の単一エピソード介入が、証券残高の同月大幅減少やレポ調達を伴わずに実行されたことが一次資料で確認された場合、H1は棄却される。
H2(現金先行) 大規模介入後、外貨預金が減少し証券残高が大きく減少しない場合、当局はまず現金性外貨(預金)を使用している。 反証条件: E6確定後の月次内訳で、預金がほぼ不変のまま証券残高のみが介入額相当減少した場合、H2は当該エピソードについて棄却される。判定は9月上旬の8月末分(E6未反映なら翌月分まで延長)で行う。
H3(使用の分離) FIMAレポの利用がH.4.1 Table 1「Foreign official」行で観測されない限り、FIMAを既使用の介入資金源として扱わない。「使える」と「使った」を分離する。 反証条件: 同行がゼロのまま、他の一次資料でFIMA経由の資金調達が確認された場合(現行の観測設計の欠陥を意味する)、H3の観測方法を改訂する。
H4(実効能力・HYPOTHESIS) 米国債の大量売却は技術的に可能でも、運用収益・市場影響・外交コストにより、名目残高ほど自由な介入余力ではない。 反証条件: 単一エピソードで証券残高が1,000億ドル超減少し、かつ米長期金利・日米当局声明に有意な反応が観測されなかった場合、H4のコスト前提は弱まる。定量閾値は本登録では固定しない(§八)。
三 概念の四区分(定義の固定)
- Capacity: 理論上介入に充当可能な外貨資産(外貨準備の外貨部分)
- Liquidity: 短期間(週次以内)に費消可能な資産。本登録では外貨預金をこれに算入し、証券は満期・売却手続きを要するため含めない
- Observed funding: 一次資料(財務省月次内訳・H.4.1・NY Fed報告)から実際の使用が確認された資金
- Effective capacity: 市場・外交・収益コストを考慮した現実的可用額。本登録では定性枠組みのみとし、数値化しない この四つを混同する記述を、WP-002本文では禁止する。
四 指標: Immediate Liquidity Coverage(ILC)
「残弾」という呼称は用いない(断定的・煽情的であり証拠原則と相容れないため)。 - ILC-A = 外貨預金(財務省月次・ドル建て) ÷ 直近確定エピソードのCost(ドル換算) - ILC-B = (外貨預金 + FIMAレポ現行上限$60bn/機関/日) ÷ 同分母。FIMA枠は「即日調達可能な上限」としての参考系列であり、H3により使用実績とは峻別する - 円→ドル換算は、当該エピソード期間のOANDA日足終値の単純平均を用いる(決定的・再現可能) - 分母は財務省が確定額を公表済みの直近エピソードとする。2026-08-28まではE5(11.73兆円)、以後はE6確定額 - 表示は小数第2位。 「あと◯発」という表現は用いず、比率として記述する - 初回の正式測定は、E6が反映された月次内訳(8月末分・9月上旬公表)で行う。参考値(非登録・ESTIMATE): 7月末預金1,623億ドル、分母E5≒747億ドル(期間平均157.0円換算)でILC-A≈2.17
五 Liquidity Constraint Event(LCE)— 「弾切れ」の操作的定義
以下の全てが一次資料で確認された状態のみをLCEと呼ぶ: 1. Cost 5兆円以上のエピソード介入が実施され、 2. その後の月次内訳で外貨預金が2か月連続で減少し、かつ 3. 同期間に、証券残高の減少加速 または H.4.1「Foreign official」レポ行の正転が観測される 預金の単月減少のみをもって「弾切れ」とは記述しない。LCEの成立・不成立は判定のたびに台帳へ記録する。
六 データと測定
| 系列 | 出典 | 頻度 | 現行取得 |
|---|---|---|---|
| 介入額(エピソード) | 財務省 平衡操作 | 月次・四半期日次 | 済 |
| 外貨準備総額・預金・証券 | 財務省 外貨準備等 | 月次 | 手動→自動化予定 |
| 米国側カストディ | FRB H.4.1(WMTSECL1) | 週次 | 済 |
| レポ総額(FIMA上界) | FRB H.4.1(WORAL) | 週次 | 済(SPEC-H41 v1.1) |
| Foreign official レポ内訳 | H.4.1 Table 1 | 週次 | リリース原文で確認 |
| 米国債保有 | 米財務省 TIC | 月次 | 本登録で追加 |
| 運用収益・繰入 | 外為特会決算 | 年次 | 本登録で追加 |
| エピソードごとに「介入前→介入→預金Δ→証券Δ→H.4.1Δ→FIMAΔ→推定調達経路」の系列表を作成する(E1〜E6遡及)。 |
七 E6検証スケジュール(事前登録)
- 2026-08-28: E6確定額 → ILC分母をE6へ更新
- 9月上旬: 外貨準備8月末分 → H2判定・ILC-A/B初回正式測定・調達経路の一次推定
- 毎週木曜: H.4.1 → H3監視(Foreign official行の正転=FIMA初使用の一次証跡)
- 10月下旬: NY連銀Q3報告 → 米側執行の通貨構成と規模の一次確認、経路表の米側欄確定 各時点の判定結果は、成立・不成立・判定不能のいずれであっても公開する。
八 識別できないもの(事前申告)
月次データでは介入日と残高変動の月内タイミングは識別できない。預金の通貨構成は非公表。政治・外交コストは定量化せず、Effective capacityの数値化は行わない。H4の完全な検証は本計画の範囲外である。
九 統計方針
標本は最大でもエピソード6件であり、相関・回帰による推論は行わない(METHOD-v1.0 §五)。すべて記述的観察として報告する。
十 本登録の位置づけ
WP-001が「いつ実施され、どれだけ持続するか」、N-004が「調達経路の証拠構造」を扱うのに対し、WP-002は「何でファイナンスし、どこに制約があるか」を扱う。本登録はその判定手続きの凍結である。