# WP-004 Protocol v0.1 ## 公表会計による為替介入執行レートの識別可能性 ### ――外国為替資金特別会計「外国為替等売買差益」の会計写像と構造的非識別 為替介入研究所 | 上村 十勝 | 起草 2026-08-10 | 会則第19条・第20条・第23条・第62条準拠 > **付番について**: WP-002 は予約済みである(「円買い介入の資金制約はどこにあるのか — 外為特会・外貨準備・米国債・FIMAからみた介入余力」・状態 PLANNED・判定手続きは PR-002 で凍結済み)。WP-003 は起草中であり、本稿執筆時点で研究登録簿に未登録である〔要是正〕。本研究所のWP番号は起案順に付与され、公開順とは一致しない。 > **本文書の性格**: 本文書は**事前登録プロトコル**であり、研究成果ではない。本文執筆前に判定基準・仮説・反証条件・禁止事項を固定することを目的とする。SHA-256 と OpenTimestamps による凍結を経てから本文に着手する。 > **表題の変更について**: 起草段階の仮題は「執行レートの部分識別――非介入成分の分離」であった。検証の結果、部分識別も非介入成分の分離もできないことが確定したため、結論に合わせて改題した(会則第32条)。 --- ## 1. Research Question > **公表された外国為替資金特別会計の年次会計情報のみから、個別の円買い為替介入の執行レートを識別または部分識別できるか。** 副次的に、対応関係が確立できる場合に限り、執行レートの identified set を算出する。 --- ## 2. 主要判定基準 本研究は**推定精度ではなく識別可能性(identifiability)を対象とする**。 法令上の会計写像と公表変数の次元から判定し、統計的推定は行わない。したがって標本数・検出力の議論は適用されない。 --- ## 3. Stage 0.5 — 会計写像の確定 **判定:CLOSED for the primary identifiability result — with two residual uncertainties** | 問 | 判定 | 根拠条文 | |---|---|---| | ① 売却時の帳簿価額の決定方法 | **確定** | 施行令第46条第2項第1号「当該売却時における外国為替相場…によって換算した価額」 | | ② 換算相場の参照時点 | **確定 — 当該売却時** | 同上 | | ②' 取引認識上の「売却日」の定義(約定日/受渡日) | **未確認** | 一次資料上の明示を確認できず(下記 Residual B) | | ③ 決算科目への経路 | **確定** | 施行令第46条第1項(年間の差益・差損を集計し超過額のみを法第78条第1項の利益または損失とする)、第47条(翌年度5月31日までに組入・補填、当該年度所属)、第46条第5〜9項(反対売買は当初売買で損益を認識せず、価額改定分は外国為替資金の評価損益として整理) | > **Residual A — 施行令第48条の再委任** > > 同条は法第79条第1項の「政令で定める場合」を「外国為替等に係る**取引で財務大臣の定めるもの**が行われる場合」として再委任している。この定めの範囲は公表資料から確認できない。 > > ただし第48条は価額改定の**例外の指定**であり、原則(基準相場による改定)を否定するものではない。本研究の非識別性の結論を変更する証拠とは、現時点で認められない。 > **Residual B — 「売却時」の日付定義** > > 施行令第46条第2項第1号が定めているのは**どの相場を参照するか**(=当該売却時のもの)であって、「売却時とは約定日であり受渡日ではない」という日付定義まで明文で置いているわけではない。財務省・法令の一次資料に当該定義を確認できなかった。 > > **本研究の主結論は影響を受けない。** 構造的非識別性は年間集約それ自体(§5)から導かれ、`B_i` を約定日で取るか受渡日で取るかによらない。 > > 影響が及ぶのは `B_i` の月次帰属のみであり、**令和4年度・令和6年度の全介入日は、約定月と受渡月(T+2)の基準相場が一致する**ため、§7・§8 の数値は両解釈のもとで不変である。分岐が生じるのは令和8年度(2026-04-30、2026-07-30、2026-07-31)であり、同年度の財務書類は未公表である。 > > 一次資料が得られるまで、この分岐は消さない。 後日いずれかが公表または開示された場合、本節を改訂し結論への影響を再評価する(会則第32条)。 --- ## 4. 測定式 施行令第46条第1項〜第3項より、年度 `y` の**符号付き年間ネット損益**を ``` N_y = Σ_{j ∈ 全外国為替等取引} π_j ``` と定義する。`π_j` は取引 `j` の差益(正)または差損(負)である。法第78条第1項は利益を歳入、損失を歳出で処理するため、公表される二科目は ``` G_y = max( N_y , 0 ) … 歳入側「外国為替等売買差益」 D_y = max( −N_y , 0 ) … 歳出側「外国為替等売買差損」 ``` となる。符号情報は失われていない。歳入側に現れるか歳出側に現れるかが切り替わるだけである。 **令和3〜6年度はいずれも `N_y > 0` であり、`N_y = G_y`。** したがって本研究の数値計算は `G_y` をそのまま用いる。 介入取引 `i` については、同条第2項第1号より ``` π_i = A_i ( 1 − B_i / M_i ) ``` - `A_i`:介入日 `i` の円受取額(財務省確定日次額) - `B_i`:当該売却時の基準外国為替相場(SPEC-KIJUN による) - `M_i`:当該日の政府取引の**円加重平均約定レート(VWAP)** 「執行レート」は単一価格ではなく VWAP として定義する。介入は複数回・複数約定になりうるためである。 --- ## 5. 主仮説 > **H1:年次「外国為替等売買差益」は、個別介入執行レート `{M_1, …, M_k}` を識別する十分統計量ではない。** **非識別性の骨格**:公表されるのは年度あたり**スカラー1個** `N_y` である。一方、未知数は介入日の `M_i`(`k` 個)に加え、外貨証券その他の非介入取引の損益 `π_j` を含む。方程式1本に対し未知数が多数であり、`N_y` から `{M_i}` への写像は単射でない。 ``` N_y ⇏ { M_1, M_2, …, M_k } ``` **これは推定誤差の問題ではなく、写像の構造による。** `B_i` の日付定義(Residual B)にも、非介入取引の内訳にも依存しない。 --- ## 6. データ | 系列 | 出所 | 状態 | |---|---|---| | 年次「外国為替等売買差益」(区分別収支計算書) | 外国為替資金特別会計財務書類 令和4・5・6年度 | FACT | | 同(資産・負債差額増減計算書) | 同上 | FACT | | 為替スワップ評価額(貸借対照表 その他の債権等/債務等) | 同上 | FACT | | 介入日次額 | 財務省「外国為替平衡操作の実施状況」 | FACT | | 介入日の日中高値・安値 | OANDA日足(SHA-256 §16) | CONFIRMED | | 基準外国為替相場 | 日銀公示値/財務書類注記/SPEC-KIJUN 復元値 | FACT/【復元値】 | **年度パネル** | 年度 | 介入額 | `G_y`(区分別収支ベース) | |---|---|---| | 令和3年度 | 0【要照合】 | 806.00 億円 | | 令和4年度 | 9兆1,880億円 | 1,692.86 億円 | | 令和5年度 | 0【要照合】 | 2,051.35 億円 | | 令和6年度 | 15兆3,233億円 | 3,780.02 億円 | 【要照合】:令和3・5年度の介入ゼロを財務省一次データにより確認する。 --- ## 7. 実証的裏づけ①:二系統の完全一致 財務書類には同名の科目が二つあり、値が一致しない。差は為替スワップ評価額の年度増減に一致する。 | 年度 | 増減計算書 | 区分別収支 | 差 | スワップ評価額の年度増減 | |---|---|---|---|---| | 令和4年度 | 37,592 | 169,286 | △131,694 | 33,205 − 164,899 = **△131,694** | | 令和5年度 | 308,018 | 205,135 | +102,883 | 136,088 − 33,205 = **+102,883** | | 令和6年度 | 240,436 | 378,002 | △137,566 | △1,477 − 136,088 = **△137,565** | (単位:百万円。令和6年度の1百万円差は百万円未満切捨てによる) 3年度とも一致する。これは施行令第46条第9項(反対売買に係る価額改定の損益は外国為替資金の評価損益として整理する)の帰結であり、**区分別収支ベースが純粋な実現簿価差であること**を数値で裏づける。以後、`G_y` は区分別収支ベースを指す。 令和3年度は期首スワップ評価額が未取得のため検証対象外とする。 --- ## 8. 実証的裏づけ②:素朴解釈の棄却(令和4年度) `M_i ∈ [L_i, H_i]`(当日安値・高値)のみを課すと、介入取引から生じる**差益の下限**は次のとおり。 | 執行日 | 額 | `B_i` | 安値 | 高値 | 差益下限 | |---|---|---|---|---|---| | 2022-09-22 | 2兆8,382億 | 137 | 140.350 | 145.902 | 677億 | | 2022-10-21 | 5兆6,202億 | 135 | 146.197 | 151.946 | 4,304億 | | 2022-10-24 | 7,296億 | 135 | 145.534 | 149.714 | 528億 | | **合計** | 9兆1,880億 | | | | **5,510億** | 一方 `G_R4 = 1,693億円`。したがって ``` 差損合計 ≥ 5,510 − 1,693 = 3,817 億円 ``` **`G_y` を「介入損益」と直接読む解釈は棄却される。** これは仮定を要しない。 **Residual B の影響を受けない**:上表3日の受渡日(T+2)は 2022-09-26、2022-10-25、2022-10-26 であり、いずれも約定月と同一の基準相場が適用される(それぞれ137、135、135)。令和6年度の4日についても同様である。 なお本節は会計モデルとの矛盾ではなく、§9の集約機構が現に作動していることの実例である。 --- ## 9. 機構 施行令第46条は、差益・差損の認識対象を介入に限定していない。同条第2項第2号・第3項第2号は**買取側**にも対称に損益を認識させ、「外国為替等」には外貨証券が含まれる(「外国通貨及び特別引出権以外のものについては、財務大臣の定める方法により算出した外国通貨…による評価額」)。 令和6年度の外貨証券取引は買入2,043兆6,882億円・売却償還2,056兆7,823億円であり、介入元本15兆3,233億円に対し**二桁大きい**。 > **注意**:この比較は gross notional であって差益への寄与額ではない。両者は比例しない。本比較が示すのは「介入以外の取引母集団が桁違いであり、同一の年間差益・差損集計に入る以上、個別介入との一対一対応を仮定できない」という点に限られる。**非識別性の証明は §5 の写像の非単射性から出す。本節は図示にとどめる。** 加えて、外貨証券の外貨建評価額の算出方法は「**財務大臣の定める方法**」であり、公表されていない。 **補助仮説 H2〔HYPOTHESIS・検証不能〕**:円安局面では基準相場が2か月遅れで低位に張り付くため、外貨建資産の買取は構造的に差損側へ振れる(第46条第3項第2号)。令和4年度に介入由来差益が相殺された機構はこれである。上記算出方法が非公開である以上、本仮説は検証できない。本文では機構の候補として提示するにとどめ、結論には用いない。 --- ## 10. Negative-result boundary 本研究が主張する範囲を次に限定する。 > **Annual public accounting data alone are insufficient for identification of individual intervention execution rates.** **主張してよいこと** - 公表された年次会計科目「外国為替等売買差益」から、個別の為替介入執行レートを復元することはできない。 - 年次「外国為替等売買差益」を、個別介入の利益または損失の証拠として使用することはできない。 - 非識別性は測定精度ではなく法令上の会計写像に由来する。 --- ## 11. 解除条件(会則第20条) 次のいずれかが公表または開示された場合、本結論を再評価する。 1. 個別取引ごとの損益 2. 年度の差益 gross total と差損 gross total の分離開示 3. 介入取引の損益を他の外国為替等取引から独立に分離できる一次資料 4. 施行令第48条の「財務大臣の定める取引」の範囲、および外貨証券の外貨建評価額の算出方法 情報公開請求、会計検査院資料、国会答弁による開示はいずれもこの条件に該当しうる。 --- ## 12. 禁止する主張(第36条・第55条) 本研究からは次を主張しない。 - 「政府の実際の執行レートを復元した」 - 「個別介入で○億円儲かった/損した」 - 「介入の損益は**誰にも**識別不能である」(射程は公表年次会計データに限る) - 「外為特会が赤字である/黒字である」 - 執行レートの点推定値 共通λ仮定 `M_i = L_i + λ(H_i − L_i)` は、点推定を作るための仮定であり、**主推定には用いない**。本文で用いる場合は感応度分析としてのみ提示し、その旨を明記する。 --- ## 13. 限界 - 令和3・5年度の介入ゼロは【要照合】。 - 令和3年度のスワップ突合は期首値未取得のため未検証。 - 介入の売買通貨がドル以外を含む場合、`B_i` は裁定外国為替相場によるべきである。四半期日次内訳は売買通貨を公表するため、公表後に確認する。 - 基準相場の一部は SPEC-KIJUN による【復元値】であり、±1円の不確実性を伴う。§8 の令和4年度の `B_i`(137/135)はこれに該当する。ただし下限計算の向きは、`B_i` が1円小さければ差益下限が大きくなる方向であり、§8 の結論は強化される。 - Residual A(施行令第48条の再委任範囲)および Residual B(「売却時」の日付定義)。いずれも §3 に記載。 - 一般会計繰入は年度により根拠法が異なる(令和5年度は防衛財源特措法第3条第1項により1兆2,004億円を含む)。年度間比較の交絡要因として明示する。 --- ## 14. 副次的発見の分離 本研究の過程で得られた次の発見は、WP-004 に含めない。 | 発見 | 帰属先 | |---|---| | 外為特会の金地金は115.53トンで3年度固定。外貨準備統計の846.0トンとの差730.5トン | **独立研究ノート**(起案予定) | | 外貨証券の1年以下満期比率 17.3%→23.3%→30.5% の単調上昇 | N-004 系(残存介入余力) | | 支払利息の符号転換(△1,264億→△1,557億→+626億)、現金支払 0→566→113,629百万円 | WP-004 補論候補。執行レート識別とは混ぜない | | 防衛財源特措法による一般会計繰入 | WP-004 §13 の交絡として残置 | --- ## 15. 依存関係 ``` SPEC-KIJUN v0.1 ──→ WP-004 ``` 一方向。WP-004 の結論が変わっても SPEC-KIJUN は影響を受けない。 --- ## 16. Evidence | source_id | 内容 | 格 | |---|---|---| | `SRC-MOF-GAITAME-R4` | 令和4年度 外国為替資金特別会計財務書類 | 一次 | | `SRC-MOF-GAITAME-R5` | 令和5年度 同 | 一次 | | `SRC-MOF-GAITAME-R6` | 令和6年度 同 | 一次 | | `SRC-MOF-FX` | 財務省 外国為替平衡操作の実施状況 | 一次 | | `SRC-MOF-ORA` | 財務省 外貨準備等の状況(令和8年6月末) | 一次 | | `SRC-LAW-TOKKAI` | 特別会計に関する法律 第78条・第79条 | 一次 | | `SRC-LAW-TOKKAI-REI` | 特別会計に関する法律施行令 第46条〜第49条 | 一次 | | `SRC-KOKUJI-970` | 基準外国為替相場及び裁定外国為替相場を定める件(昭和24年12月大蔵省告示第970号) | 一次(現行部分は財務書類注記により逐語確認) | | `SRC-BOJ-KIJUN` | 日本銀行 基準外国為替相場及び裁定外国為替相場一覧 | 一次 | | `SRC-OANDA-D1` | OANDA USD/JPY 日足 | 正準価格系列 | | `SRC-SANGIIN-PRISM129` | 参議院 経済のプリズム No.129(2014.9)藤井亮二 | **二次**。条文の所在特定にのみ使用し、事実認定には用いない | 各 source_id に URL・取得日時(ISO 8601 +09:00)・スナップショットの SHA-256 を付す。 --- ## 17. 公開順序の制約 本プロトコルは事前登録として機能させるため、**本文執筆の前に**次を完了する。 1. 本文書の確定 → SHA-256 算出 → 公開 2. GitHub 初回 push + OpenTimestamps 刻印 3. 本文着手 なお PR-001・PR-002・N-005 の既定期限(2026-08-28)は本件に優先する。本プロトコルの凍結はその後でよい。 --- ## 18. 所長承認を要する事項 1. WP-004 を本設計・本表題で確定するか 2. §3 の Stage 0.5 判定(CLOSED for primary result, with Residual A / B)を承認するか 3. §12 の禁止事項リストを凍結するか 4. §14 の副次的発見の分離先を承認するか 5. WP-003 を研究登録簿へ登録するか(現在未登録) --- ## 19. 研究上の位置づけ(第58条) 本研究の出発点は「公表会計から秘密の執行レートを逆算できるのではないか」という仮説であった。この仮説は、研究所自身の検証により棄却された。 `U_y` を恣意的に調整して仮説を延命させる余地はあったが、法令に遡って**そもそも識別不能であった**ことを確定させた。会則が定める「訂正は評判に優先する」の実践であり、本研究の価値はこの経路そのものにある。 --- **改訂履歴** - v0.1(2026-08-10): 初版起草。所長承認前・未凍結。 *本文書はAI MQL合同会社 為替介入研究所による研究の準備文書であり、研究成果ではない。特定の金融商品の売買を推奨するものではない。分析および解釈の誤りはすべて筆者に帰する。*