# PR-005 「日本発国債暴落ドミノ」説 — 資金回帰メカニズムの反証テスト(draft-1) 為替介入研究所 | draft-1: 2026-08-18 起草 | **状態: 起草(未凍結)** | 番号PR-005は暫定(PR-003はBOP系、PR-004は基準相場非対称性の骨子に予約済み。凍結時に確定する) 関連: PR-003(NISA由来の円安物語の反証テスト)と同型の設計。WP-003(市場記憶)、N-00X(介入原資の調達チャネル)とは独立。 --- > **本文書は起草中であり、事前登録として凍結されていない。** 四の閾値は暫定であり、承認事項⑤(参照期間)の判断により変更されうる。 > 凍結(GitHubへの収載と外部タイムスタンプの取得)を経てはじめて「規則が結果より前に存在した」ことが第三者検証可能になる。 > 現時点で本文書に事前登録としての効力はない。変更はすべて版履歴に記録する。 ## 一 背景と本登録の目的 2026年に米国の一部論者・投資系メディアで、「日本国債の利回り上昇 → 本邦機関投資家が外債から国内債へ資金回帰(レパトリエーション) → 米国債需要の減少 → 米長期金利上昇 → 世界的な債券売り」という連鎖(以下「ドミノ説」)が論じられている。日本語メディアもこれを紹介している。 本登録は、この言説の当否を論評するものではない。**言説が含意する観測可能な中核メカニズム=「本邦投資家の対外債券投資が持続的な売り越しへ転じる」を、決着より前に判定規則を凍結したうえで反証可能な形に落とす**ことを目的とする。 言説そのものは二次資料(論説・アナリストコメント)であり、当所の事実ソース名簿に載らない。本登録が扱うのは言説ではなく**一次統計で観測できる資金フロー**である。 ## 二 主命題 **H_repat〔検証対象仮説〕**: 日本国債利回りの上昇局面において、本邦の民間投資家による対外中長期債投資は、持続的な売り越し(資金回帰)へ転じる。 **否定側の対立仮説 H_null**: 本邦民間投資家の対外中長期債フローは、JGB利回りの水準・変化と系統的な関係を持たず、従来の変動範囲内にとどまる。 ## 三 判定変数(本登録で凍結) **主判定変数 V**: 財務省「対外及び対内証券売買契約等の状況」/投資家部門別対外証券投資(中長期債)の月次値において、 ``` V(月) = 各部門計ネット − 公的部門ネット (単位: 億円、買い越しが正) ``` 出所ファイル: `monthb3.csv`(財務省サイト itn_transactions_in_securities/monthb3.csv)。列位置は「各部門計ネット」および「公的部門ネット」。 **公的部門を控除する理由**: ドミノ説が主張するのは民間機関投資家(生保・年金・銀行)の行動であり、政府の行動ではない。控除により、政策要因と民間の投資判断を分離する。 **介入による交絡がないことの確認〔FACT〕**: E5決済月(2026年5月)の公的部門ネットは **−2億円** であった一方、同月の外貨準備・証券は **−755.63億ドル(約11兆円)** 減少している。桁が3つ以上異なることから、外為特会の介入に伴う外貨証券売却は本統計に計上されていない(国際収支上、外貨準備は証券投資とは別の機能別分類であるため)。**したがって主判定変数は介入自身による押し下げを構造的に受けない。** これはWP-001の+α基準③が介入自身によって発火しうる交絡を抱えていたのと対照的であり、本登録の設計上の強みである。 ## 四 閾値(実測分布から事前に設定・凍結) 参照期間 **2024年1月〜2026年7月(n=31か月)** の V の実測分布: | 統計量 | 値(億円) | |---|---| | 平均 | +4,414 | | 中央値 | +3,841 | | 標準偏差 | 25,607 | | P25 | −12,362 | | P10 | −33,493 | | P5 | −37,574 | | 最小 | −44,881 | | 売り越し月 | 12 / 31 | 3か月累計の分布: 中央値 +11,133 / P10 **−58,017** / 最小 −66,625。 **成立条件(いずれか一方でH_repat成立)** - **(A) 累積条件**: 判定窓内のいずれかの時点で、**V の3か月累計 ≤ −58,017億円**(参照期間の3か月累計分布のP10) - **(B) 持続条件**: **V ≤ −33,493億円**(参照期間の月次分布のP10)が **3か月連続** **反証条件**: 判定窓の終了時点で (A)(B) のいずれも成立しなかった場合、**H_repat を棄却方向とし、ドミノ説の中核メカニズムは当該期間に観測されなかったと記録する。** 閾値の性格の申告: 3か月累計は重複窓であり系列相関を持つため、P10は統計的検定量ではなく**経験的ベンチマーク**である。本登録は有意性検定を主張しない(METHOD-v1.0 §六)。 ## 五 判定窓と決着日 **判定窓: 凍結日 〜 2027年1月分(2027年3月上旬公表)まで。** 月次は翌々月上旬に公表されるため、実質的な最終判定は2027年3月上旬。中間報告は各月の公表時に機械適用して逐次記録する。 ## 六 補助系列(確認的・単独では判定しない) 1. **TIC(米財務省 Major Foreign Holders)の日本保有額**: 判定窓内に3か月連続の減少があるか。※居住者全体・保管地ベースであり公的民間を分離できないため、単独では判定に用いない 2. **JGB利回り**: 10年・20年・30年(日本相互証券/財務省国債金利情報)。H_repatの前提条件(利回り上昇局面)が成立しているかの確認に用いる 3. **米10年債利回り**: 米財務省日次パーイールド。※米財政・供給・Fed政策が支配的であり、日本要因への帰属はできない(識別不能として申告) ## 七 既知情報の開示(第58条) 本登録の設計時点で、当所は次を把握している。閾値はこれらを見たうえで設定したものであり、判定窓は将来のみを対象とする。 - **直近3か月累計(2026年5〜7月)は +34,561億円の買い越し**。すなわち現時点で資金回帰は観測されていない - 2026年2月 V=−34,104、3月 V=−37,574 と2か月連続で大幅な売り越しがあった(Q1のレパトリエーション報道と整合)。ただし4月 +5,053、5月 +30,863、6月 −143、7月 +3,841 と買い越しへ反転している - 参照期間の分布(四の表)はすべて公表済みデータから算出した - 週次系列(week.csv・対外証券投資/中長期債ネット)では、2026年8月2〜8日週が +16,294億円の買い越しであることも把握している ## 八 識別できないもの(事前申告) - **因果の方向**: 仮に V が売り越しへ転じても、原因がJGB利回りか、ヘッジコストか、為替観か、規制・会計要因かは本統計から識別できない - **米金利への波及**: 米長期金利の変動を日本要因へ帰属することは公表データでは不可能 - **保有主体の実態**: TICは保管地ベースであり、最終保有者・公的民間の別を識別できない - **言説の広がり**: 「アメリカで広まっている」という主張の真偽は当所の観測対象外(測定手段を持たない) ## 九 本登録が成立しても言えないこと (A)(B) の成立は「本邦民間投資家が対外中長期債を持続的に売り越した」という**事実の観測**にとどまる。ドミノ説が主張する連鎖(→米金利上昇→世界的債券売り)の成立を意味しない。八のとおり波及の帰属は識別不能である。逆に反証条件の成立も、「当該期間に観測されなかった」以上を意味せず、将来の発生可能性を否定しない。 ## 十 参照データの固定 - 判定変数の抽出系列: `data/pr005_v_series_private.csv`(2005年1月〜2026年7月・259か月)SHA-256: `d6fda7b4109033384b4db0505709ce3d1c294eb50e79d0746a3abd2cdd80cc69` - 原本: 財務省 `monthb3.csv`(最終更新 令和8年8月10日・当所取得2026-08-18)/ `week.csv`(同 8月14日)。原本は財務省サイトから随時再取得できるため当所では再配布せず、抽出系列のみを公開する - 判定は各回の公表版を当所が再取得して機械適用する。過去分の遡及改訂があった場合は改訂後の値を用い、改訂の事実を記録する --- ## 承認事項(所長) ① 採番(PR-005か、N-series扱いか) ② 主判定変数を「各部門計 − 公的部門」とすること(月次のみ/週次は補助)の採否 ③ 閾値 (A) 3か月累計 ≤ −58,017億円 / (B) 単月 ≤ −33,493億円 × 3か月連続 の採否 ④ 判定窓の終期(2027年1月分=2027年3月上旬公表)の採否 ⑤ 参照期間を2024年1月以降(n=31)としたことの採否。より長期(2015年以降等)に変更するか ⑥ 凍結日程。8/28(E6総額確定)と同時か、それより前か ## 版履歴 - draft-1(2026-08-18): 初稿。参照分布の算出、公的部門控除の設計、介入交絡の不存在の実測確認を同時に実施。