# N-008 ポジションが戻らないまま価格だけ戻る — 介入の価格効果と投機ポジション効果の減衰速度(事前登録) **Price Recovery Without Position Recovery** 為替介入研究所 | **v1.0: 2026-08-22 凍結** | 状態: PREREGISTERED | 所長承認済み 関連: WP-001(価格の効果半減期)・N-007(半減期は初到達時間である)・PR-001 > **本文書は凍結済みである。** 三の判定規則と同梱の計算スクリプト(`n008_compute.py`)は、 > E1〜E5への適用より前に確定し、SHA-256とGitHubコミット、OpenTimestampsにより > 「規則が結果に先行して存在した」ことを第三者が検証できる状態に置いた。 > **E6の数値は既知であり七で全面開示する。E1〜E5は本稿の凍結時点で一切計算していない。** > 凍結後の規則変更は行わない(会則第19条)。 --- ## 一 問いと標本の位置づけ > **為替介入の後、価格の変位と投機ポジションの変位は、同じ速度で減衰するか。** E6で観測されたのは、次のデカップリングである(いずれも一次確認済み)。 - **価格**: 介入による変位の50%が**8営業日**で失われた(2026-08-13終値159.518円 > 事前登録閾値159.483円) - **ポジション**: 介入から**10営業日後**の時点で、CFTC非商業ネットは介入前水準へ**6.3%**しか戻っていない **標本の役割を先に固定する。** | 標本 | 役割 | |---|---| | **E6** | **仮説生成(hypothesis-generating)**。本研究の着想はE6の観測から得ており、結果を見た後に規則を定めている。**確証には用いない** | | **E1〜E5** | **遡及検証(retrospective validation)**。本稿の凍結後に、同一規則を機械的に適用する | この区分を設けるのは、E6を確証標本に含めれば「発見した事例で発見を確認する」循環になるためである(METHOD-v1.0 §六)。 ## 二 名称 — 因果を名称に埋め込まない 本指標を「ポジション半減期」とは呼ばない。CFTCのネットポジションは介入によって作られた状態を直接測っているわけではなく、金利差・リスク選好・他通貨要因でも動く。 正式名称を **ポジション再構築時間(Position Reconstitution Time, PRT)** とする。「介入後の」という時間的順序のみを含意し、因果を主張しない。50%到達点を **PRT50** と記す。 ## 三 判定規則(本稿で凍結する) ### 3.1 判定変数 CFTC Commitments of Traders、Japanese Yen(CME・Code 097741)、**Futures Only**、**Legacy分類の非商業ネット**。 ``` P(t) = Non-Commercial Long − Non-Commercial Short (枚・火曜基準日) ``` 主系列をLegacy非商業に固定する。E1(2022年9月)まで同一定義で遡及できるため。TFF分類のLeveraged Fundsは**補助系列**として併記するが判定には用いない。 ### 3.2 基準点 P₀ 各エピソードの**初回介入日より前**に基準日を持つ、**最後のCOT観測**。長期平均は用いない(介入直前の市場ポジションを復元することが目的であるため)。 ### 3.3 介入後極値 P₁ **最終介入日以降の最初のCOT観測を含む、連続する4観測のうち、P₀からの乖離が最大の値。** 介入直後1週に固定しないのは、ポジション調整が翌週以降に続く可能性があるため。窓は4観測に固定し、**後から窓を伸縮させない**。 **この定義に伴うバイアスの申告**: 4点から最大値を選ぶ操作は、真のピークを系統的に過大評価する。P₁がより極端になると分母 |P₀−P₁| が拡大し、以降のRは機械的に小さく出る。したがって**PRT50は長めに推定されうる**。これを踏まえ、次を必ず併記する。 - **感度分析**: P₁を「最終介入日以降の最初の観測」に固定した場合の結果(窓=1) 両定義で結論(型分類)が変わる場合、その旨を明記し、いずれか一方を採用しない。 ### 3.4 再構築率と PRT50 ``` R(t) = ( P(t) − P₁ ) / ( P₀ − P₁ ) PRT50 = min { t : R(t) ≥ 0.5 } ``` R = 0% が最大解消点、50% が半分再構築、100% が介入前水準への完全復帰。 **初回到達のみを採用する。** いったん50%を超えて再び低下してもPRT50は変更しない(価格半減期と判定規則を揃える。N-007のとおり、到達後の情報は本指標に含まれない)。 **単位**: 第一にCOTの**週数**(P₁の基準日を0週とする)。補助的に**最終介入日からの暦日数**を併記する。価格半減期は営業日、PRT50は週であり粒度が異なるため、暦日数を橋渡しに用いる。 ### 3.5 打ち切り 次エピソードの P₀ 基準日に到達した時点、またはデータ末尾で**右打ち切り**とする。**50%へ戻らない場合に値を作らない。** 観測週数と到達時点のRを併記する。 ### 3.6 型分類 価格半減期とPRT50をいずれも**最終介入日からの暦日数**に換算して比較する。 | 型 | 定義 | |---|---| | **Type A: Price-first decay** | 価格半減期 < PRT50 | | **Type B: Position-first decay** | PRT50 < 価格半減期 | | **Type C: Synchronous decay** | 両者の暦日数の差が7日以内 | | **Type D: Censored** | いずれか一方または両方が右打ち切り | Type Cの判定を先に行い、7日以内ならA/Bに優先してCとする。 ## 四 この研究が壊れる条件(反証条件) 1. **E1〜E5がすべてType C** なら、価格とポジションを分けて測る意味は乏しい。本ノートの前提が否定される 2. **PRT50と価格半減期が強い順位相関を示す** なら、二つは同じものを別粒度で測っているだけの可能性が高い(n=6のため有意性は主張しない) 3. **E4がType B** の場合 — 価格半減期431営業日に対しPRT50が数週間だったなら、E6と**正反対のデカップリング**になる。この場合「両者の減衰速度に安定した比例関係は存在しない」というより強い結論に進める。**E4が本研究の決定的標本である** ## 五 解釈の限界 — 「別の主体が動かした」と言う前に E6のように「ポジションが戻らないまま価格が戻る」場合、価格復元を説明する主体をCOTの外に求めたくなる(本邦リアルマネー、企業フロー、対外債券投資、オフショア先物、オプション・ディーラー、ドル側要因など)。これは検討に値する仮説だが、**本ノートはこの推論を採らない**。理由は次のとおり。 **COTが捕捉する範囲は、そもそも極めて小さい。** CME円先物の建玉は約38万枚(2026-08-18)、想定元本にして約4.8兆円である。世界の円取引高は1日あたり数百兆円規模であり、COTはその一部の断面にすぎない。したがって「CME投機筋のポジションが戻らないのに価格が戻った」という観測は、**価格がそもそもCME投機筋によって主に動かされてはいなかった**という、より単純な説明とも完全に整合する。 **「介入後の円安を作っている主体は介入前のCME投機筋とは違う」という主張には、COTの外の証拠が必要である。** 本ノートはその証拠を持たない。したがって五の内容は解釈の候補の列挙にとどめ、いずれもHYPOTHESISとして扱う。 ## 六 データと出所 - CFTC COT(Futures Only・Legacy・Japanese Yen 097741)。現行週は `cftc.gov/dea/futures/deacmesf.htm`、過去分はCFTC年次アーカイブ - 価格半減期はWP-001 v1.3の公表値(E1〜E5: 1・5・15・431・5営業日)およびE6の確定値(8営業日)を用い、**本ノートで再計算しない** - 介入日は財務省「外国為替平衡操作の実施状況」(E6は報道推計を含む・ESTIMATE) - 判定規則の実装 `n008_compute.py` を本稿と同時に凍結する。**凍結後は改変せずE1〜E5へ適用する** ## 七 既知情報の開示(第58条) **E6(すべて一次確認済み・FACT)** | 基準日 | 非商業ネット(枚) | 前週差 | |---|---|---| | 2026-07-28 | −163,412 | — | | 2026-08-04 | −45,473 | +117,939 | | 2026-08-11 | −42,085 | +3,388 | | 2026-08-18 | −52,893 | −10,808 | **主定義(3.3・窓=4)**: P₀ = −163,412、P₁ = **−42,085(2026-08-11)**、50%線 −102,748。 R(2026-08-18) = **8.91%** → **PRT50 未到達(右打ち切り・観測1週)** **感度分析(窓=1)**: P₁ = −45,473(2026-08-04)、50%線 −104,442。R(2026-08-18) = **6.29%** → 同じく未到達。 両定義とも結論は変わらない(未到達)。 **価格側**: E6の価格半減期は8営業日。したがってE6は現時点で **Type A(Price-first decay)に分類される見込み**だが、PRT50が右打ち切りである以上、確定は将来の観測に依存する。 補助系列(判定に用いない): TFF Leveraged Funds の2026-08-18ネットは −67,971枚、前週比でネットショートが14,901枚拡大。 **E1〜E5については、本稿の凍結時点で計算を行っていない。** ## 八 識別できないもの(事前申告) - **因果**: PRTを「介入効果の減衰」と同一視できない(二の名称の理由) - **網羅性**: 五のとおり、COTはCME上場先物のみ。銀行間・OTC・オフショアは含まれない - **粒度**: COTは火曜基準の週次。価格半減期(営業日)との暦日換算は橋渡しであって同一化ではない - **報告遅延**: COTは基準日の3営業日後に公表される。本ノートは事後測定のみを扱い、リアルタイム観測可能性は主張しない - **構成**: ネットは総建玉の差であり、同じネット水準でも構成(ロング増かショート減か)は異なりうる。本ノートはネットのみを見る - **基準点の感度**: P₀を「直前の1観測」としたことは恣意的でありうる。**凍結後に変更しない**(第19条) ## 九 スケジュール 1. **凍結**: 2026-08-22 に本稿と `n008_compute.py` を確定。GitHub収載とOpenTimestamps申請を実施(Bitcoin確定待ちの間はPENDINGと表示する) 2. 凍結の確認後ただちにE1〜E5へスクリプトを適用し、結果をv1.1として公開 3. E6のPRT50は週次COTで継続観測し、到達または次エピソード開始で確定 4. 総括はWP-001次版に統合するか独立WPとするかを、結果を見てから判断する --- ## 凍結時の承認記録(所長) 2026-08-22 に次の全項目を承認のうえ凍結した。 ① 採番: N-008 ② P₁の主定義を「窓=4の極値」とし、窓=1を感度分析として併記(三3.3のバイアス申告つき) ③ E6を仮説生成標本、E1〜E5を遡及検証標本と位置づける ④ 型分類の閾値(Type Cを暦日7日以内) ⑤ 五の限界記述 — 「別の主体が動かした」という解釈を採らず、COTの捕捉範囲の小ささを先に述べる ⑥ E1〜E5を凍結後まで計算しない運用 ## 版履歴 - **v1.0(2026-08-22)**: 所長承認のうえ凍結。draft-2から内容の変更なし(表題・状態表示・スケジュール記述のみ更新) - draft-2(2026-08-21): 名称をPRTへ変更(因果の非埋込)。P₁を窓=4の極値に変更し感度分析を併設、選択バイアスを明示。E6を仮説生成標本と位置づけ。五「解釈の限界」を新設し、COTの捕捉範囲から「別主体」推論を採らない旨を明記。主題を Price Recovery Without Position Recovery に変更 - draft-1(2026-08-21): 初稿。E6のみで実装を検証。