# N-007 半減期は初到達時間である — 到達後の挙動が指標から抜け落ちている 為替介入研究所 研究ノート | draft-1: 2026-08-18 起草・公開 | **状態: 起草(未凍結)** | 採番N-007は暫定 関連: WP-001(効果半減期の定義と測定)・METHOD-v1.0・PR-001。本ノートはWP-001の指標を否定するものではなく、**その指標が構造的に捨てている情報**を特定し、補助指標の候補を提示する。 --- > **本ノートは起草稿である。** 四の補助指標は定義の提案にとどまり、閾値を設定していない(事前登録前に閾値を置くと後知恵になるため)。 > **二の表のE6行は右打ち切りであり、観測の継続により変わる。** 変更は誤りの訂正ではなく版の更新として版履歴に記録する。 > 数値・検算はすべて再現可能である(証跡: `data/n007_post_passage.csv`)。 ## 一 問題 WP-001の主指標「効果半減期」は、最終介入日の翌営業日から、終値が「エピソード最安値 + Impact × 0.5」に**初めて到達する**までの営業日数と定義されている(METHOD-v1.0 §2)。 これは確率過程論でいう**初到達時間(first passage time)**である。初到達時間は定義上、到達した時点で測定を終了する。したがって**到達後に価格がどう振る舞ったかの情報を一切含まない。** この性質が実害を持つことが、E5とE6の対比で明らかになった。 ## 二 観測 — E5とE6は到達前が一致し、到達後に分岐する〔FACT〕 正本(OANDA日足終値)による測定。回復率 = (終値 − エピソード最安値) ÷ Impact。 **到達前(最終介入日を0とする)** | 営業日 | 0 | 1 | 2 | 3 | 1日あたり | |---|---|---|---|---|---| | E5 | 23% | 33% | 29% | 39% | **+5.0pt** | | E6 | 23% | 30% | 30% | 38% | **+5.0pt** | 初日の回復率は両者とも23%で一致し、3営業日目までの平均速度も+5.0pt/日で一致する。**この区間では両者を区別できない。** **到達後(50%初到達日を0とする・窓を3営業日に揃える)** | Ep | 半減期 | Impact | 回復率 0→3日 | ドリフト/日 | 終値レンジ | Impact比 | 50%線への再割込 | |---|---|---|---|---|---|---|---| | E1 | 1 | 5.55円 | 54% → 68% | +4.6pt | 1.484円 | 26.7% | なし | | E2 | 5 | 6.41円 | 50% → 43% | **−2.4pt** | 0.824円 | 12.9% | あり | | E3 | 15 | 7.23円 | 53% → 54% | +0.3pt | 0.165円 | **2.3%** | なし | | E4 | 431 | 4.40円 | 54% → 57% | +1.0pt | 0.868円 | 19.7% | あり | | E5 | 5 | 5.69円 | 50% → 67% | **+5.6pt** | 0.964円 | 16.9% | なし | | E6 | 8 | 8.51円 | 50% → 51% | **+0.0pt** | 0.209円 | **2.5%** | あり | 半減期が同じ5営業日のE2とE5は、到達後に**逆方向**(−2.4pt vs +5.6pt)へ動いている。半減期の近いE5(5)とE6(8)は、到達後の速度が**+5.6pt対+0.0pt**と対照的である。 **E6の到達後の全観測〔FACT〕**: 8/13 159.518(50%)→ 8/14 159.321(48%)→ 8/17 159.469(50%)→ 8/18 159.530(51%)。4営業日の終値レンジは**20.9銭**、Impact比2.5%にとどまる。 ## 三 主張 > **半減期が近いエピソードでも、到達後の挙動は大きく異なる。半減期は「効果がいつ半分になったか」を測るが、「半分になった後に何が起きたか」は測っていない。**〔FACT — 上表の測定値による〕 n=6の記述であり、統計的推論ではない(METHOD-v1.0 §六)。 ## 四 補助指標の候補(提案・未確定) 到達後の情報を捨てないために、次の3つを候補とする。いずれも**事前登録して初めて意味を持つ**ため、本ノートでは定義の提案にとどめ、閾値は設定しない。 1. **到達後ドリフト D(n)**: 到達日から n 営業日後までの回復率の平均変化(pt/営業日)。符号が「効果の剥落が続くか、押し戻されたか」を表す 2. **到達後レンジ比 W(n)**: 到達後 n 営業日の終値レンジ ÷ Impact。小さいほど価格が滞留していることを示す 3. **再割込までの日数 T_re**: 50%線を初到達後、終値が再び50%線以下へ戻るまでの営業日数(戻らなければ右打ち切り) 窓 n は全エピソードで揃えること。異なる n の値を比較してはならない(レンジは時間とともに機械的に拡大するため)。**本ノートの二の表は n=3 に揃えてある。** ## 五 なぜE6が静止しているのかは、まだ言えない〔HYPOTHESIS〕 候補を3つ挙げるが、現時点でいずれも選べない。 1. **+αの有無による**: E6は「+α有(③のみ・2026-08-10発火)」、E5は「+α無」と判定済み(PR-001の機械適用)。ただし③はPR-001が事前に警告した交絡(介入自身が実現ボラを押し上げる)が該当しており、単独では弱い証拠である 2. **再介入予想の織り込み**: E6は1998年以来の日米協調介入であり、日本側談話に「更なる協調介入を実施することも躊躇しない」、米側にも同旨の発言がある。市場が再介入を織り込んでいる可能性 3. **観測期間が短いだけ**: E6の到達後は4営業日しかない。ただしE5は到達翌日に+9ptを記録しており、「最初は緩やかだった」という説明は当てはまりにくい **識別の限界**: 上記を分離する手段を当所は持たない。滞留の原因(当局の意思、市場参加者の予想、単なる需給の均衡)は公表データから識別できない。 ## 六 注意 — 滞留水準と当所の閾値の一致について〔重要〕 E6が滞留している159.32〜159.53は、当所が事前登録した閾値159.483とほぼ重なる。**これを「市場が当所の線を意識している」と読んではならない。** 159.483はエピソード高値と安値の中点として当所が計算した構成物であり、市場に存在する水準ではない。大きな値動きの中点が滞留域になりやすいという一般的性質のほうが説明として素直である。本ノートはこの一致に因果的意味を与えない。 ## 七 限界 - n=6。統計的推論は行わない - E6は到達後4営業日のみで**右打ち切り**。二の表のE6行は暫定であり、観測の継続で変わりうる - 窓 n=3 の選択は恣意的である。n=5, 7 で順位が入れ替わる可能性がある(実際 n=7 ではE1 +2.0、E2 −5.2、E3 +0.9、E4 −3.3、E5 +3.3 となり、E2とE4の符号が変わる) - 到達後ドリフトは介入とは無関係な要因(米指標、地政学、月末フロー)で決まりうる。本ノートは因果を主張しない - E1〜E5の半減期は当所の再計算で正本値(1・5・15・431・5)を完全再現したが、E6は正本CSVの期間外のため統合データで算出した ## 八 今後の観測 E6が(a)50%線を明確に上抜けて剥落を続けるか、(b)割り込んで戻るか、(c)滞留を続けるか。いずれの場合も、五の3仮説の切り分けに一歩近づく。**ただし事後に「どれが正しかったか」を選ぶ作業は後知恵になるため、補助指標を採用するなら次エピソード(E7)より前に定義と閾値を事前登録する必要がある。** ## 九 データ - 正本: OANDA USD/JPY 日足終値(当所管理・SHA-256記録) - 再現用証跡: `data/n007_post_passage.csv`(全6エピソード×到達前後の終値・回復率・区間ラベル/514行) - 統合期間: 2002-05-06 〜 2026-08-18(6,308本) - 検算: E1〜E5の半減期を再計算し、WP-001掲載値と完全一致することを確認した --- ## 承認事項(所長) ① 採番(N-007でよいか) ② 四の補助指標3件を「候補」として掲載することの可否(事前登録前に定義を公開する是非) ③ 二の表の窓を n=3 に固定することの可否(七に記したとおり n によって順位が変わる) ④ 六の注意書きの表現(当所閾値との一致に因果を与えない旨) ⑤ 公開時期 — E6の観測を数営業日続けてからにするか、現時点の右打ち切り状態で公開するか ## 版履歴 - draft-1(2026-08-18): 初稿。E1〜E6の半減期再計算による検算、到達後挙動の窓合わせ比較を同時に実施。