# N-006 日銀利上げは国内リテールFXスワップに7週間伝達されなかった ## — 政策金利差乖離の形成・一斉解消と、対照群(IG=Tom/Next準拠)による切り分け 為替介入研究所 | 2026-08-11 | v1.0 | 研究ノート **要旨** 1. 2026年6月16日の日銀利上げ(0.75%→1.00%)は、国内店頭FX3社(SBI・GMOクリック・ヒロセ通商)のUSD/JPYスワップ提示に約7週間反映されず、政策金利差の理論値に対し中値ベースで**+28〜+59円/万通貨/日**(年率0.6〜1.3%相当)の上方乖離が形成された(FACT)。 2. この乖離は7月30日〜8月5日に**3社で一斉に解消**した(ヒロセ7/30起点161→115円・SBI 7/31起点148→115円・GMO 8/3起点164→123円)。着地はヒロセ・SBIが理論値+1円以内(FACT)。 3. 同期間、**IG証券(英IG Group・スワップをTom/Next±年0.6%から算出と公式明示)の乖離は+7〜+12円で恒常・無風**だった(FACT・当所独立再計算)。すなわち卸売のTom/Next市場は壊れておらず、消えたのは**国内リテール供給網に固有の上乗せ**である。 4. 過去エピソード(E1〜E5・2022/2024年)では、介入週に乖離の変動は確認されない。2022年はむしろ国内網がFed利上げを大幅に未伝達(ヒロセ乖離−2.2〜−3.1%pt、IGは−0.5〜−0.9%pt)だった。一般法則: **日本の国内リテールFX網は、最後に動いた中央銀行の方向に大きく遅れる。Tom/Next準拠系列では同現象は観測されない**(FACT・三時代)。 5. 解消の契機は、介入執行(7/30-31)・日銀会合(同日)・スポット約8円急落が**同一の48時間に重畳**しており、現データでは分離できない(分離不能の宣言)。判別試験を§五に事前登録する。 --- ## 一 主定理: 国内リテール網の遅延伝達(対照群つき) 理論値 = 各日OANDA終値 ×(FF金利誘導中間値 − 日銀誘導目標)÷ 365(円/万通貨/日)。乖離 = 提示中値 −理論値(中値 =(買 + |売|)÷ 2)。 | 時代 | 未伝達だった政策変更 | 国内網(ヒロセ・週次) | IG(Tom/Next準拠・週次) | |---|---|---|---| | 2022年(E1/E2期) | Fedの連続利上げ | **−2.2〜−3.1%pt** | −0.5〜−0.9%pt | | 2024年(E3/E4期) | — | −0.8〜−2.0%pt | ≈ 0〜+0.2%pt | | 2026年(E5/E6期) | 日銀6/16利上げ | **+0.9〜+1.1%pt** | +0.2〜+0.6%pt(円換算+7〜12円・恒常) | 符号が時代で反転している点が本質である。国内網は「最後に動いた中銀」の方向に遅れ、乖離の符号はどちらの中銀が動いたかで決まる。IGの恒常+8円前後は同社の固定アドオン(年0.6%)と整合する水準差であり、時間変動しない。**対照群の資格を持つ**。 ## 二 2026年の顕微鏡: 形成7週間・解消2〜5営業日 理論超過(中値・円/万通貨/日): | 期間 | SBI | GMOクリック | ヒロセ | **IG(対照)** | |---|---:|---:|---:|---:| | 5月 | +9.6 | +16.4 | +27.9 | +7.6 | | 6/1–15(利上げ前) | +10.7 | +19.4 | +40.9 | +7.1 | | 6/16–30(利上げ後) | +27.9 | +31.3 | +52.6 | +11.9 | | 7/1–29(ピーク) | +29.9 | +35.7 | +58.8 | +9.3 | | 8/7–12(収束後) | +5.1 | +16.6 | +16.4 | +10.1 | 6/16に理論値のみが約11円低下し、国内3社の提示は維持・上昇した(非伝達の署名)。解消は7/30(ヒロセ)→7/31(SBI)→8/3(GMO)と業者ごとに0〜3営業日の遅差を伴い、2〜5営業日で完了した。同窓のIG通常日中値は128→118円前後の微動にとどまる。なお、ほぼ同規模の円買い介入(E5・11.7兆円)の決済窓(2026年5月上旬)では、いずれの系列にも変動はない。 ## 三 解釈: 消えたのは「国内リテールの円ショート上乗せ」 IGが自社スワップを**Tom/Next ± 年0.6%**から算出すると公式に明示している以上、IG系列の無風は「世界のUSD/JPY Tom/Nextが30〜50円分崩れた」仮説と整合しない。観測と整合する最小の記述はこうである — **卸売キャリー(wholesale carry)は概ね不変のまま、国内リテール供給網に存在した上乗せ(Japanese retail carry premium)だけが消滅した**。 上乗せがなぜ存在したかは二択が残る(いずれもHYPOTHESIS): (a) 国内カバー銀行・LPの提示が利上げを完全パススルーしなかった、(b) 国内各社が高スワップを競争軸として自社マージン等で顧客支払額を維持した。7月の円安局面では、結果として**市場の理論キャリーを超えて円ショートを奨励する価格設定**が国内個人向けに存在していたことになる。 ## 四 契機: 三候補の重畳と分離不能の宣言 解消の開始(7/30〜8/3)には、①円買い介入の執行(7/30-31)、②日銀金融政策決定会合(7/30-31・据え置きだがタカ派)、③USD/JPYスポットの約8円急落、が同一の48時間に重なっている。過去5エピソードの介入週に乖離変動が確認されないこと(§一)から、介入単独の因果は支持されない。本ノートは「介入・会合・急変が重なった週に、国内リテールの上乗せが一斉に畳まれた」という**契機の記述**までを主張し、因果の配分は行わない。 ## 五 事前登録する判別試験(2026-08-11固定) 1. **くりっく365**(取引所決定・受払同額): 同期間の公式スワップ履歴が国内3社と同様に崩落していれば国内銀行間側の要因、IG同様に不変なら店頭各社の営業プライシング説が強まる。最も鋭い識別実験。 2. **OANDA証券(東京サーバー)**: 公式スワップカレンダーおよび口座取引履歴(DAILY_FINANCING)。国内網型かIG型かでカバー系統の地図を一枚追加。 3. **日銀当座預金「財政等要因」**(8/3〜8/5): 介入決済に整合する資金吸収の有無。 4. **金融先物取引業協会・店頭FX月次建玉**(7月末): スポット急落による顧客建玉の縮小規模(契機③の物証)。 5. **IG implied Tom/Next の3層分解**: IG系列から固定アドオンを除去し、「政策金利差」「卸売T/N」「国内リテール上乗せ」の3層チャートを作成(v1.1)。 ## 六 方法・再現性 - 政策金利: 日銀 −0.10(〜2024-03-18)→0.00-0.10→0.25(2024-07-31)→0.50(2025-01-24)→0.75(2025-12)→**1.00(2026-06-16)**。FF中間値は2024年までFOMC決定日で更新、**2025〜26年は3.625%を仮置き**(FRED DFEDTARU/DFEDTARLで確定後にv1.1で更新)。 - 週次換算は「1週間の付与日数合計=7」の不変量を用いる。**大型連休の境界ではロール日数が週を跨ぎ、執行週にミラー型の偽変動を生む**(E3〜E5の見かけ上のスパイクはこれによる。本ノートの結論はアーティファクト除去後のもの)。 - データ: ヒロセ通商公式CSV(2021-01〜・当所取得)、IG証券公式xlsx(2019-01〜・当所取得)を同梱。SBIは所長口座明細73点(買売スプレッド8円固定73/73の内部整合検査済み)、GMOクリックは公式スワップカレンダー転記(当所の独立再取得はv1.1で実施予定)。スポットはOANDA日足終値(当所正典)。 ## 七 限界の申告 外為どっとコムは公開経路が確認できず未取得。SBI系列は単一口座由来。業者名の記載は提示値の記録であり、優劣の評価・特定サービスの推奨ではない。本ノートは取引助言を含まず、建玉・採算に関する記述を意図的に排除している(会則第40条)。 **改訂予定(v1.1)**: SBI・GMO日次CSVの同梱、くりっく365・OANDA系列の追加、IG implied T/N 3層分解図、Fed経路の一次確定。 --- *為替介入研究所 | 一次資料と再現可能な計算のみに基づく | 本文・データのSHA-256はdocs/HASHES.txtに掲載*